裏目の居酒屋

長年、車通勤をしているので、帰りがけに飲み屋に立ち寄ることはない。車を会社に置いて出かけると、翌朝はバスや電車の面倒な乗り継ぎ出社になる。帰宅して車を降りてから飲みに出かけ直すのもおっくうだ。それに家の周辺は昔からの住宅街なので、食事処はそこそこあるが、居酒屋となると数が少なく、気に入った店がなかなか見つからない。これはかなり不幸なことだ。

それでも息子に誘われれば、よい店がどこかにないか捜してみようという気になる。駅まで歩くとチェーン店がいくつか開いているが、若者が集まって騒々しいので、落ち着いて飲めない。居酒屋はまず雰囲気よく、気が利いてくつろげること、料理がうまいこと、それでいてそう高くないこと。

電車に乗って繁華街まで足を伸ばせば、そういう店はいくつもある。宴会やパーティならそれもするが、サンダル掛けの普段着で出かける行きつけの店が、どこか近くになければならない。

物色しながら入ってみたA店は、カウンター6席に4人掛けのテーブル席が2つ。このぐらいでも悪くない。年寄り夫婦が二人でずっとやってきたようで、手料理の数も一応揃って味も値段も手ごろ。

ところが、カウンターにぶら下がっている客が互いに顔見知りの固定客ばかりで、市電がなくなったのは昭和のいつごろだとか、そのころだれそれは昔あった映画館の裏に住んでいたが、その後離婚して商売替えをしたな、娘がひとりいたがどうなったか、などと昔話で盛り上がり、店のおやじも相槌を打ったり、手持ち情報を打ち明ける。私も当時の街のようすは知っているが、輪の中に入ると足抜けできなくなりそうで、静観しているとよそ者の気分にさせられる。こりゃだめだ。

B店はA店より広めで割烹に近い。値段は高めだが料理もよく、女将(といってもかなりのばあさん)の話ではこの地に3代目の老舗らしい。それは知らなかった。心地よく楽しめそうだが、なんだか店内ががらんとして人気(ひとけ)が乏しい。もっと流行ってもよさそうだがと思っていて、だんだん分かってきた。

ばあさんが料理をお盆に載せて運んでくるのだが、手がぷるぷる震えて危なっかしい。昔、ドリフターズの「もしもこんな…」シリーズで志村けんが演じていたじいさんそのままだ。注文した料理も板前に通すまでに1つ、2つ忘れてしまう。それでいて、ひれ酒のアルコール分をマッチの火で飛ばさないで飲んだら、「飲み方知らないね」と余計なことを言う。飲み方ぐらい知っているが、省略したら無作法というほどのものではなかろうに。

3代目が板前でばあさんはその母親らしい。老舗のプライドが邪魔をして、客についなにか言って、客足が遠のいてしまうのだろう。

板前が時々ばあさんに怒る。また注文を忘れたらしい。客の相手をするのが無理なのに、本人は「私が元気なうちは」のつもりのようだ。若いアルバイトを雇えば解決すると思うが、新人が入ってくるとばあさんが余計な口を出して居つかないのかもしれない。客が減ればアルバイトを雇う余裕もなくなる、献立の値段も上がる。悪循環だ。

次来るとすれば、カウンター越しに板前の正面に席を取ることにしよう。


おまじない

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