彼の余生

たまにファミレスで朝食をとることがある。前回出かけたのは夏の終わりごろだったか。入口に80代半ば、ひょっとすると90過ぎと思われる老人が座っていて「おはようございまふ」と大きな声をかけてきた。語尾で息が抜けるのは入れ歯のせいだろう。いきなりで戸惑ったが、挨拶を返しておいた。

数カ月して久しぶりに来てみると、同じ老人が同じ場所にいて今度は「グッドモーニング」と呼びかけてきた。毎朝ずっとこうしているのだろうか。ちょっと問題だが、一応手を上げて会釈をしておいた。

朝食を食べ終わったころ、その老人が店に入ってきた。前かがみで歩行はゆっくりだが、杖はついていない。ハンチングをかぶり、ちょっと小ぎれいにしておしゃれの意識があるらしい。ウエイトレスに声をかけながら、一番奥の席に座った。常連客と思われる。

奥から左手に曲がると喫煙席の部屋がある。しばらくして喫煙席から出てきた老女と少々言葉を交わす。顔見知りのようだ。

またしばらくすると喫煙席に入る中年女性がいて、会話を始める。今度は少し長い。女性はタイミングを見て切り上げようとするが、「ございまふ」の老人はつぎつぎ話を繋ぐ。

ひとり暮らしなんだろうな、と思う。家にいても寂しくて話し相手がほしい。そこで店の入口で待ち構えて、誰彼なく声をかけることを思いついた。妙な老人と関わりたくなくて、無視する人もいるだろう。言葉を交わしてきっかけができると、もっと話したい。

多少迷惑がられながらも、こうしてだんだん相手を増やしてゆく。おしゃれをしているのも、好感度をあげたいために気を使っている。独居老人の社交場――たぶんそういうことなのだろう。

彼はどんな人生を送ってきたのだろう。若いころはごくごく平凡だったのか、おしゃべり好きだったのか、案外人見知りするほうだったのか。そして残り少ない余生をどう終えてゆくのか。すれ違っただけの私には知るすべもないが、今をこうして生きていこうと努めているのはよく分かる。


おまじない

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